日本一のバス路線沿線の皆様へ 架空の地元新聞記事
「日本一の路線バス」といえば近鉄大和八木駅(奈良県橿原市)とJR新宮駅(和歌山県新宮市)を結ぶ奈良交通の「八木新宮線(やぎしんぐうせん)」。
このルートを「全線歩き通した」男性を紹介する。
総延長167キロを約6時間半で結ぶ、高速道路を使わない路線としては日本最長距離を誇るバス路線。
沿線住民の足としてはもちろん、ローカルバスの旅番組やネットの特集記事などの影響で、遠くからやってきて八木から新宮までの全区間を乗り通す人や、温泉巡りや古道巡りで十津川村(とつかわむら)や田辺市本宮町(ほんぐうちょう)をバスで訪ねる人も増えているという。
「10年近く前、新宮と熊野本宮の往復に初めてバスを利用したのですが、バスの車窓から見える熊野川の雄大さに心を奪われました。乗用車に比べて窓が大きくて目線が高いのが良い。」というのは三重県津市在住の会社員・中村充さん(1966年生まれ)。
当時利用したバスは熊野交通バスだったが「行先表示に大きく『八木駅』と書いてある奈良交通バスとすれ違ったのか、新宮駅前で停車していたのか忘れましたが、“日本一の長距離路線バス”を初めて見て、いつしか乗ってみたいと思いました。
全然歩き旅にたどり着いていませんね。僕は話が長いんです。」と笑う。
初めて“日本一のバス”に乗ったのはそれから2~3年後。
熊野本宮大社の少し手前から熊野古道を散策しようと大和八木駅から本宮町(田辺市)まで乗ったのだが、バス路線沿線の風景に魅せられ、ゆっくり眺めたいなと考えながら、これまた“日本一大きな村”奈良県十津川村を何回も訪ねるようになったという。
「十津川温泉にはこれまでにホテルや民宿など5カ所の宿泊施設を利用しました。
創作料理の宿、ボリューム満点のシシ鍋でもてなしてくれた宿。
十津川をのぞむ露天風呂や総ヒノキづくりの内風呂、夜中に目にした満天の星空など、どこも印象深い。
同村内の湯泉地(とうせんじ)温泉は立ち寄りで数回入りました。
村ぐるみで『源泉かけ流し宣言』を行っているのが地域の魅力かな。」
転機は2018年の9月。
突然左目の視界がなくなって網膜剥離と診断され緊急の手術。
運よく失明することは免れたが距離感がつかめなくて車の運転が出来ない状態に。
憂鬱な気持ちを紛らわすために中村さんは再び八木駅発・新宮駅行のバスに乗った。
「一日3往復のバスですが、観光客だけでなく、少ないながら乗り降りする地元の人達もいる。
車に乗らない人達が移動するにはバス利用しかなく、自分の今の立場と同じで、これだけの長距離路線にも関わらず時間通りに走ってくれるバスはありがたいと思いました。
車窓の景色は見える方の右目で楽しみました。
開通したばかりの真新しいトンネルを抜けたり、旧道の集落に入っていったり。
スッと車両を路肩に寄せて後続の車に追い抜いてもらったり。
道路は曲がりくねっているのに運転がとてもスムーズ。
八木新宮線は専門の運転手が運行を務めていると聞きました。
始発から終着までの6時間半、おひとりで乗務を担当するんです。」
2020年2月下旬の朝、中村さんは近鉄大和八木駅のバスターミナルに降り立った。
近鉄大和八木駅からJR新宮駅まで167のバス停があることを示す八木新宮線の案内板を目で追うと、バスを待つことなくそのまま歩き始めた。
(2021年7月15日更新 第2話に続く)
~“日本一のバス路線” 大和八木~新宮 167キロ+αを歩く~ その② 奈良県橿原市~御所市 - kotarosandayoneの日記 (hatenablog.com)